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名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)97号 判決 1977年5月18日

原告

被告

山本信一

ほか一名

主文

被告山本信一、同山本春己は各自原告に対し金三、六九二、一九四円及び別表(二)の賠償額欄記載の各金員に対する同表支払日欄記載の各支払日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員を各支払え。

被告山本信一は原告に対し金三五、六〇八円及びこれに対する昭和四六年七月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告両名に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その八を被告ら、その二を原告の各負担とする。

この判決は原告勝訴の部分にかぎり仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の申立てた裁判

一  原告

「被告らは原告に対し各自金四、九〇九、七五四円及び内金四、八六五、二四三円については別表(一)請求額欄記載の各金額に対する各支払日の翌日から、内金四四、五一一円についてはこれに対する昭和四六年七月二八日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

昭和四六年七月二七日午前一〇時五〇分頃、被告山本信一は自己所有の自動二輪車(名古屋ま一六二一号、以下加害車という)を運転して名古屋市港区名港通一丁目三番地先南北道路を時速約七〇キロメートル(制限速度時速五〇キロメートル)で北進中、同地先交差点にさしかかつた際、同交差点には既に東西道路の西側から南北道路へ右折中の訴外野口勝美運転の大型貨物自動車及び東進中の訴外川口兼彦運転の原告所有の自動二輪車(港た四七号、以下被害車両という)があつたのであるから、同交差点に進入するに当つては進路前方を注視し、できるかぎり安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務があつたにもかかわらず、無謀にも漫然と前記速度のまま自車を進行させた過失により、同車を右大型貨物自動車の前部に接触させた後、右川口運転の被害車両に衝突させ、よつて同人に対し右下腿骨開放性骨折等の傷害を負わせるとともに、同車両を大破させた。

二  被告らの帰責事由

(一)  被告山本信一は本件加害車両の所有者で同車を自己のため使用していたものであり、また被告山本春己は被告信一の父で、本件事故当時満一六歳で名城大学付属高校二年在学中の被告信一に右車両を買い与え保険料その他の管理費用を春己自ら負担していたものであるから、被告らはいずれも右車両を自己のため運行の用に供していたものである。

(二)  本件事故は前記のとおり被告信一の過失によつて発生したものであるが、被告春己にも年少の信一に本件加害車両を買い与えたまま監督義務者としての注意義務を尽すことなく信一の無謀な運転を放任していた過失があり、そのため信一をして本件事故を発生するに至らしめたものであるから、被告らはいずれも不法行為者として本件事故による損害を賠償する責任がある。

三  訴外川口の損害と原告の権利

(一)  訴外川口は、本件事故当時国家公務員(郵政事務官)として名古屋港郵便局集配課に勤務し、事故当日小包郵便物の配達業務に従事し、本件事故はその公務遂行中に発生したものである。

(二)  訴外川口は前記傷害治療のため事故当日から昭和四七年九月六日まで名古屋市港区真砂町四丁目一番地所在臨港病院に入院し、退院後今日までなお右病院に通院加療中であるが、同人の右治療に要した費用は昭和四九年九月三〇日現在計金四、〇八四、〇二九円である。

原告は国家公務員災害補償法一〇条の規定に基づき訴外川口に対し別表(一)療養補償欄記載のとおり療養補償として昭和四九年一〇月三一日までに総額四、〇八四、〇二九円を支給し同人の損害を填補したので、同法六条一項の規定により同人が被告らに対して有する損害賠償請求権を右補償額の限度で代位取得した。

(三)  訴外川口は前記受傷のため全日を欠務した日が合計四七〇日、時間単位で欠務した日が日数にして合計八二日で欠務時間数にして合計一五九時間である。その欠務した日数及び時間数に対応する給与の額は総額金一、七八一、二一四円である。

原告は右川口に対し公共企業体等労働関係法八条一号に基づき郵政省と全逓信労働組合及び全国特定局従業員組合との間に締結された昭和三二年一一月二六日付特別休暇等に関する協約四条二項の規定により別表(一)給与支給欄記載のとおり総額金一、七八一、二一四円を支払い、同人の損害を填補したので、民法四二二条により同人が被告らに対して有する損害賠償請求権を右給与支給額の限度において代位取得した。

四  車両損害

本件事故のため原告の被害車両が大破し、金四四、五一一円の損害を蒙つた。

五  保険金の控除

原告は本件事故に関し、自賠責保険の保険金一、〇〇〇、〇〇〇円の交付を受け、これを別表(一)保険金充当欄記載のとおり訴外川口に対する療養費に充当した。

六  結論

以上のとおり原告が被告らに対して有する損害賠償債権の合計額は金四、九〇九、七五四円である。

そこで、原告は被告らに対し各自金四、九〇九、七五四円及び内金四、八六五、二四三円につき別表(一)の請求額欄記載の各金額に対する各支払日の翌日から、内金四四、五一一円につきこれに対する本件事故の日の翌日である昭和四六年七月二八日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告らの答弁並びに主張

一  請求原因一項の事実中、原告主張の日時、場所において交通事故が発生したことは認めるが、その態様を争う。被告山本信一の過失も争う。

二  同二項中、被告山本信一が本件自動二輪車を所有していたこと、同人が当時名城大学付属高校に在学し一六歳の少年であつたこと、被告山本春己が右信一の父であることは認めるが、被告信一の過失責任、被告春己の運行供用者責任及び過失責任を争う。

三  同三項及び四項は知らない。

四  同五項も知らない。

五  被告らの主張

(一)  過失相殺の主張

本件事故現場における被告信一車の走行していた南北道路は幅員一五・五メートルで中央分離帯と側道の設置された幹線道路であり、これと交差する東西道路は幅員一〇メートルで交差点手前に一時停止標識のある道路であつて、右南北道路は優先性が顕著である。しかも、本件事故現場は左右の見とおしの悪い交差点である。したがつて、東西道路の西側から南北道路へ右折する訴外野口勝美の運転する大型貨物自動車及び東西道路を東進する訴外川口兼彦の自動二輪車はいずれも交差する優先性の顕著な南北道路を通行する車両の通行を妨げないように注意する義務がある。にもかかわらず、訴外野口勝美は右方の安全確認の注意義務を怠り漫然と東西道路の西側から南北道路へ右折しようとし、また訴外川口兼彦は右野口車の左側にそつてこれまた右方に対する安全確認の義務を怠り東進しようとしたため、被告信一の自動二輪車が訴外野口車の前部に接触し、次いで訴外川口の自動二輪車と衝突するに至つた。

以上のとおり、本件事故は訴外野口、同川口の重大な過失によつて発生したものである。

したがつて、訴外川口の損害を填補した原告の本件求償権の行使は同訴外人の過失を斟酌してなされるべきものである。

(二)  弁済の主張

訴外川口はその損害につき自賠責保険金二、六二〇、〇〇〇円の交付を受けているので、同受給額は原告の請求額から控除すべきである。

第四被告らの主張に対する原告の答弁

一  過失相殺の主張については争う。

二  訴外川口の受給した自賠責保険金二、六二〇、〇〇〇円は同訴外人の後遺障害に対する損害填補であつて原告の請求とは無縁である。

第五証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

成立に争いない甲(ロ)第五〇号証の一、三、四、証人野口勝美の証言、被告山本信一本人の供述、併合中の昭和四九年(ワ)第二七九九号事件の原告川口兼彦本人の供述並びに弁論の全趣旨によれば、原告主張の日時に、被告山本信一は自己所有の自動二輪車を運転して名古屋市港区名港通一丁目三番地先南北道路をかなり速い速度で北進中、同地先交差点(信号機の設置がなく交通整理の行われていない交差点)にさしかかつた際、同交差点には既に交差する東西道路の西側から南北道路へ右折中の訴外野口勝美運転の大型貨物自動車及び東進中の訴外川口兼彦運転の自動二輪車(原告所有)があつたにもかかわらず、減速も徐行もしないで漫然と同交差点を北進しようとしたため、自車を右大型貨物自動車の前部に接触、ついで訴外川口運転の自動二輪車に衝突させ、よつて訴外川口に対し右下腿骨開放性骨折等の傷害を負わせるとともに原告所有の自動二輪車を破損させたことが認められる。

二  被告らの責任

(一)  被告信一の責任

前項の事実並びに被告山本信一、同山本春己各本人の供述によれば、本件加害者は被告信一の所有車で同人が自己のため使用していたものであること、本件事故は、被告信一が前記のように既に本件交差点に右折或いは直進中の車両があるのにこれらの車両の進行を妨げないようその動静に注意し安全な速度と方法で自車を進行させるべき注意義務を怠つた過失が要因であることが認められる。したがつて、被告信一は自賠法三条の運行供用者及び不法行為者として本件事故による損害を賠償する責任がある。

(二)  被告春己の責任

被告山本信一、同山本春己各本人の供述によれば、本件事故当時被告信一は高校在学中の未成年者で父である被告春己と生計を共にし、その養育監護の下にあつたこと、被告春己が本件加害車両の購入費用の一半を出捐し、また同車の保険料をも負担していることなどの事実が認められる。これらの事実からみると、被告春己は本件加害車両の運行供用者とするのが相当である。

なお、原告は被告春己に監督義務者としての義務違反の過失があると主張するが、被告春己と同信一の右父子関係から直ちに被告春己の右過失を肯認することはできないし、本件事故について被告春己に如何なる監督義務違反の事実があつたか、その具体的内容を明らかにすべき資料も見当らない。被告春己の過失に関する原告の主張は肯認できない。

三  訴外川口兼彦の損害と原告の填補

前掲川口兼彦本人の供述によれば、同訴外人は本件事故当時国家公務員(郵政事務官)として名古屋港郵便局に勤務し小包郵便物の配達業務に従事中であつたことが明らかである。

(一)  成立に争いない甲(ロ)第一号証の一ないし三〇、同第一二号証の三、同第一三号証の二、同第一七号証の一ないし一一、同第二〇号証の一、二、五、同第二三号証の一、二、同第二四号証の二、同第二五号証の一ないし九、同第二六号証の一ないし六、同第二七号証の一ないし三、同第二八号証の一ないし一〇、同第二九号証の一ないし五、同第三〇号証の一ないし六、同第三一号証の一ないし五、同第三二号証の一、二、同第三三号証の一、二、同第三四号証の一、二、同第三五号証の一ないし六、同第三六号証の一ないし五、同第三七号証の一ないし四、同第三八号証の一、二、同第三九号証の一、二、同第四〇号証の一、二、同第四一号証の一、二、同第四二号証の一ないし三、同第四三号証の一、二、証人加藤とき子の証言によつて成立の認められる甲(ロ)第一二号証の一、二、同第一三号証の一、同第一四号証の一ないし三、同第一五号証、同第一六号証、同第一八号証の一、二、同第一九号証の一、二、同第二〇号証の三、四、同第二一号証、同第二二号証の一、二、前掲川口兼彦本人の供述によつて成立の認められる甲(ロ)第二四号証の一によれば、訴外川口が前記傷害のため本件事故当日から原告主張の病院に昭和四七年九月六日まで入院、その後同病院に通院、昭和四九年九月三〇日現在治療に要した費用が計金四、〇八四、〇二九円に達したこと、右訴外川口の治療に要した損害額を原告がその主張の如く昭和四九年一〇月三一日までに別表(一)療養補償欄記載のとおり補償したことが認められる。

(二)  また、成立に争いない甲(ロ)第二号証、同第三号証の一ないし四、同第四号証の一ないし七、同第五号証の一、二、同第五号証の三ないし五の各一、二、同第四五号証ないし同第四九号証、及び弁論の全趣旨によれば、訴外川口が前記受傷のため長期欠務し、全日を欠務した日が合計四七〇日、時間単位で欠務した日が日数にして会計八二日、欠務時間数にして合計一五九時間に達したこと、その欠務した日数及び時間数に対応する給与の額が総額金一、七八一、二一四円となり、訴外川口が同額の損害を蒙つたこと、原告が右訴外川口の休業損害に対しその主張の如く昭和四六年七月一七日から昭和四九年一二月二七日までの間に別表(一)給与支給欄記載のとおり総額金一、七八一、二一四円を支払い補償したことが認められる。

したがつて、右損害の補償により原告はその主張のとおり訴外川口の本件加害車両の運行供用者である被告両名に対する損害賠償請求権を、国家公務員災害補償法六条一項ないし民法四二二条に則り右填補額の限度で代位取得した。

四  車両損害

成立に争いない甲(ロ)第六号証の一ないし三、同第七号証、同第八号証、同第九号証の一、二、同第一〇号証の一、二によれば、本件事故によつて原告所有の前記自動二輪車が大破し廃車のやむなきに至り、原告が金四四、五一一円の損害を蒙つたことが認められる。

五  過失相殺

前記のとおり本件事故の発生は被告信一の前記過失を要因とするものであるが、前記一項挙示の証拠によれば訴外川口のほうにも過失がなかつたとはいえない。すなわち、訴外川口にも東西道路の西側から本件交差点に進入するに当り、同道路から南北道路へ右折する前記野口勝美運転の大型貨物自動車の左側に並行して進行し、そのため右方の見とおしが殆んどできないような状況にあつたにもかかわらず、南北道路を北進する車両に対する通行の安全を確認せず、不用意に進行を続けた過失があり、そのため加害車と衝突する寸前まで同車の動静を認識することができなかつたことが本件事故の一因ともなつていることが認められる。前記のとおり先入車両であるとの故をもつて右訴外人の右過失を看過することはできない。

そして、前記事故の態様、被告信一の過失等を勘案すると被告信一の過失が八割、訴外川口の過失が二割とするのが相当である。

しかも、訴外川口が前記のとおり国家公務員としてその公務に従事中本件事故の発生をみるに至つたものであるから、同訴外人の過失はひいては原告側の過失として考えるのが相当である。

そして、この過失割合は原告の蒙つた前記車両の損害額については勿論、訴外川口に対する療養補償、休業補償を原因とする前記求償請求額についても斟酌するのが相当である。

以上のとおり斟酌して原告の損害並びに求償請求額を前記金額から二割を減じ、つぎのとおり定める。

療養補償の求償につき総額(詳細は別表(二)のとおり) 金三、二六七、二二三円

休業補償の求償につき総額(詳細は別表(二)のとおり) 金一、四二四、九七一円

車両損害につき 金三五、六〇八円

六  損益相殺(保険金の控除)

原告が本件事故に関し自賠責保険から金一、〇〇〇、〇〇〇円の保険金給付を受け、これを訴外川口に対する療養費に充当したことは、原告の自認するところである。

なお、被告らは、訴外川口が給付を受けた自賠責保険金二、六二〇、〇〇〇円も原告の前記賠償請求額から控除すべきである旨主張しているが、弁論の全趣旨によれば右は訴外川口の本件事故による後遺障害に対する補償として同訴外人が給付を受けたものであつて、同訴外人の療養費、休業補償とは関係のないことが窺われるので被告らの右主張は肯認できない。

したがつて、原告自認の保険金受領額を控除すると原告の療養費に関する賠償請求額は差引総額金二、二六七、二二三円となる。

七  結論

以上のとおり、被告信一、同春己は各自原告に対し金三、六九二、一九四円及び別表(二)の賠償額欄記載の各金額に対する支払日欄記載の各支払日の翌日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、又被告信一は原告に対し金三五、六〇八円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和四六年七月二八日から完済まで前同利率による遅延損害金を支払う義務がある。原告の被告両名に対するその余の請求は理由がないのでこれを棄却する。訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 至勢忠一)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

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